急激な減量の生理学

【要約】

①極端な食事制限を行うと体内の水分が減少し、血液の濃縮され、流れにくくなることで心臓の負担が増大する。

②急激な食事制限を行うとき、消費される物質の1/3-1/2程度はからだを構成するタンパク質であるという研究報告が多い。体脂肪率がほとんど改善されないことを意味し、筋肉・内臓・血中のタンパク質が分解され、健康や体力を阻害するリスクが高い。

③急激な糖質制限をすると、血液が酸性に傾き、正常な代謝を維持するためのさまざまな化学反応が阻害され不整脈(心臓の脈が乱れる)が出たりする例も多く報告されている。

④健康的に減量する場合の限界は月に4kgまでであるとされている。

(詳細)

【心臓の負担の増大】食物の中には多くの水分が含まれているので、絶食や急激な食事制限をすると、食物とともに体内に入ってくるはずの水分が摂取されず体内の水分が減少する。

また、食事制限を行うと塩分の摂取量も制限される。さらに尿や汗によって塩分は体外に排出されるめに、体内の塩分量がますます減少していく。

そうすると、血液をはじとする体液の塩分濃度が低下するため、体液の塩分濃度が低下しすぎないように尿として水分が排出される。

ところが、血液中の赤血球などは血液中の水分が減少するほど早く変化しないので水分が減少すると血液の濃縮が起き、血液が流れにくくなる。

このように、極端な食事制限を行うと血漿量が減少し、血液の濃縮が起きて血液が流れにくくなるので、必要な血液を組織に送るための心臓の負担が増大するようになる。

【タンパク質の減少】急激な減量が健康を阻害する原因の2番目として、体内のタンパク質の分解促進があげられる。

減量の目的は体脂肪の減少にある。

しかし、体内では脂肪だけを酸化してエネルギーとして利用することができず、常に糖質を同時に燃焼している。ところが、体内の糖質の貯蔵量は非常に限られているため、急激な減量を行おうとすると、まず体中の糖質がなくなってしまう。体内の糖質がなくなると、筋肉や内臓を構成するタンパク質や血液中のタンパク質を分解して糖質の代わりに消費するようになる。このように、急激な減量を行うと、血液中のタンパク質が減少する。

新しい赤血球を骨髄で作るときは、血液によって運ばれてくるタンパク質を材料にしている。血液中のタンパク質が不足すると、新しい赤血球を十分作ることができなくなり、また鉄分の摂取量も減少するため、赤血球の中で酸素を運ぶ役割を果たしているヘモグロビンも減少し、貧血になることがある。

このように、急激な減量を行うと、骨格筋や内臓そして血液のタンパク質が分解され、健康や体力を阻害してしまう危険性がある。

急激な食事制限を行うとき、消費される物質の1/3-1/2程度はからだを構成するタンパク質であるという研究報告が多い。このことは急激な減量では、体脂肪率をほとんど改善することができないことを意味している。

【糖質の減少】体内の糖質が減少してくると脂肪の消費量(酸化量)が増加する。脂肪の酸化量を増加させるために血液中の脂肪酸の濃度が増加する。血液中の脂肪酸濃度が増えると、血液が酸性に傾き、正常な代謝を維持するためのさまざまな化学反応が阻害され不整脈(心臓の脈が乱れる)が出たりする例も多く報告されている。

【適切な減量】健康的に減量をするためには、1日当りのエネルギーのマイナスは1000kcalを越えないようにする。また1日当りの摂取エネルギー量が1,500kcal を切ると、ミネラルやビタミンの摂取不足が起きることが多い。

このため健康的に減量する場合の限界は月に4kgまでであるとされている。

参考文献 基礎・運動栄養学

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