家庭を安心の場に 圧力や干渉やめて
現実世界の苦しみが問題 まず、食事や雑談から
オンラインゲームやSNSをやり過ぎ、学業などに影響が出る「ネット依存」。
なぜ陥るのか、防ぐすべはあるのか。5年前からネット依存症外来を開設する国立病院機構「さいがた医療センター」の佐久間寛之院長と同院の依存症治療チームに聞いた。
ネット依存の定義は
学術的には「ゲーム障害」といいます。①ゲームやネットの頻度や時間を本人がコントロールできない②学校生活などほかの活動よりも優先してしまう③学業不振や健康を損ねるなど悪影響が出ても続けてしまう、といった行動パターンがあります。
食欲不振やイライラ、昼夜逆転による不登校といった状態に陥りがちです。
依存に陥るまでの過程は
前提として、低年齢の頃からネットやゲームをしていることや、好きな時にできるなどアクセスがしやすい、友人みんながやっているといった環境があることがまずあげられます。
そのうえで、本人にのめり込む傾向があると学業や人間関係といった社会生活への影響が出はじめ、そこから目を背けようとしてネットやゲーム以外への興味が失われるなどして依存が形成されます。
小中学生に情報端末が1人につき1台配布されるなど、ゲームやネットにアクセスしやすくなっています。
歯止めが必要でしょうか
依存の本質は「苦痛の回避」にあります。
学校に行きたくても行けない、自分に自信がないなど、現実世界がとても苦しいことが問題なのです。
ゲームやネットを遠ざけても、現実世界の苦しさがなくならない限り問題は解決しません。
一方でゲームやネットの仮想世界は安心できたり、自分の役割があったりし、その苦しさを忘れられます。
ゲームやネットをすることで救われているとも言えます。
保護者は不安になり、取り上げるなど強制的な対応をしてしまいがちです
依存傾向が強くなると、楽しいからやるのではなく、苦しみから逃れるため、やりたくなくてもやらざるを得ない状況にあることが多いです。
そこで取り上げたらどうなるか。
取り戻すために家族に暴力を振るうかもしれない。最悪の場合、自死を考えるかもしれません。
保護者には、ゲームをすることで命が守られているのかもしれない、暴力に走らずに済んでいるかもしれないと考えてほしい。
少なくとも、取り上げることで改善することはまずないと知ってほしいと思います。
依存症治療のポイントは
安心感を与え、本人の自尊感情を高め、現実の楽しさを知ってもらうことが重要です。
さいがた医療センターでは、医師による面接を基本にしつつ、希望者には仲間やスタッフと一緒に遊ぶ集団プログラムを受けてもらいます。
面接は、良好な関係をつくり、次回の面接にも来てもらうことを最大の目標とします。
私の場合は「どんなゲームやっているの」といった雑談が8割です。
集団プログラムでは、希望に応じて運動したり、キャンプをしたり、料理をしたり。
そして一緒にご飯を食べます。
心理的安全性が感じられるよう、参加者それぞれが意見を言える雰囲気づくりを心がけています。
治療にあたって保護者に求めることは
まずはたわいのない雑談をしたり一緒に食事をしたりして、家庭のあたたかさを取り戻してほしいのです。
そうなれば、家庭が子どもにとって安心する場になり、ネット依存からの回復を促します。
保護者、特に母親は、子どものネット依存や不登校について周囲から責められるなどし、追い詰められることが多い傾向があります。
何とかしようとして無理に学校に行かせたり、ゲームを取り上げようとしたりして疲弊してしまう。
そういった親の圧力が本人の負担になり、依存を強めてしまう側面があります。
まずはそうした干渉をやめ、ともに楽になってほしいと思います。