デンマークにある「エグモント・ホイスコーレン」という学校で教員をしています。
成人(18歳以上)のための全寮制学校で、生徒約220人のうち約4割が身体障害や知的障害を抱えています。
みんな同じ寮で暮らし、同じ授業を受けます。
校内にプロのヘルパーもいますが、障害がある生徒の介助は主に健常者の生徒が担います。
知的障害者向けのグループホームを経営する父の勧めで、1997年に日本人留学生の1期生として学びました。
学校の第一印象は「なんだここは!」。
クラスメートに様々な障害を持った生徒がいました。
日本では、障害者は「父の職場にいる人」で、自分とは縁がないと感じていました。
でもエグモントでは同じ食卓に並び、同じ部屋で寝て、いっしょに勉強をしました。
驚きを感じながらも、同じように、おならをしたりお酒を飲んだりする人たちなんだと実感しました。
エグモントはインクルーシブ教育で有名ですが、マニュアルはありません。
大切なのはその場に合った方法を考え、失敗しても許され、別の方法でチャレンジできる環境です。
例えば、運動が苦手な知的障害のある生徒が、サッカーの授業でボールに追いつけないときは、ルールを何度も変えました。
障害者だから手伝ってあげるという方向ではなく、どうすれば障害者も健常者も力を発揮できるのか考えるのです。
最終的に、障害がある生徒が決めたゴールは5点というルールにすると、みんなが一生懸命、障害がある生徒にボールをパスするようになりました。
枠組み次第で障害者も健常者もそれぞれの役割を見つけて、楽しむことができるのです。
海外への修学旅行や登山もあります。
普段と違う環境の中、限られた補助器具でどうすれば全員が楽しめるのか。
生徒は試行錯誤を繰り返します。
デンマークの人は「考えて行動するのではなく、行動しながら考えろ」とよく言います。
エグモントの存在を伝えて、一人でも多くの人が、失敗しても前に進む勇気を持てたらいいなと思います。
朝日新聞 9/26朝刊より