高齢者の睡眠
年齢とともに睡眠は変化します。
健康な高齢者の方でも睡眠が浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒が増加します。
●年齢とともに睡眠が変化する
第一の変化は、高齢者では若い頃にくらべて早寝早起きになることです。
これは体内時計の加齢変化によるもので、睡眠だけではなく、血圧・体温・ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体機能リズムが前倒しになります。したがって高齢者の方の早朝覚醒それ自体は病気ではありません。眠気が出たら床につき、朝方に目が覚めて二度寝ができないようであれば床から出て朝の時間を有意義に使いましょう。
第二の変化は、睡眠が浅くなることです。
睡眠脳波を調べてみると、深いノンレム睡眠が減って浅いノンレム睡眠が増えるようになります。そのため尿意やちょっとした物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。
寝床に長くいすぎていませんか
早寝早起きは結構ですが、眠気がないのに「やることがないから寝床に入る」ことはやめましょう。寝つきは悪くなりますし、中途覚醒が増えてしまいます。年齢を重ねるごとに実際に眠れる時間は短くなります。若い頃の睡眠時間を望むのは無い物ねだりと言えましょう。
一方で寝床にいる時間はどうでしょうか。高齢者ほど寝床に入っている時間が長いことが分かっています。睡眠時間が短くなるのに寝床にいる時間が長くなる…。結果として眠れぬままに寝床でうつらうつらしている時間が増えて睡眠の満足度も低下してしまいます。
●高齢者に多い睡眠障害
若い頃には影響がなかった生活習慣(運動不足・夜勤など)や嗜好品(カフェインの入った飲み物やアルコール類)でも睡眠障害が生じることがあります。不眠や眠気があったら、その原因を突き止めること、原因に応じた対処を行うことから治療は始まります。
高齢者がかかりやすい睡眠障害があります。
中でも
・眠り出すと呼吸が止まってしまうため、過眠や高血圧などを引き起こす病気。
・夕方から深夜にかけて、下肢を中心として、「ムズムズする」「痛がゆい」「じっとしていると非常に不快」といった異常な感覚が出現してくる病気です。
・睡眠中に片足あるいは両足の不随意運動(ピクピク)が周期的に起こるため、頻回に脳波上の覚醒反応を生じ、夜間の不眠や日中の過眠が生じる病気です。
・睡眠中に夢体験と同じ行動をとってしまう病気。
などは専門施設での検査と診断が必要です。
これらの特殊な睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治りません。
現在日本で使われている睡眠薬は安全性が高いので、過剰な心配はいりません。ただし高齢者では若年者に較べて睡眠薬に対する感受性が高く(少量で効きやすい)、体内から排泄する力も弱くなるので、注意深く使用する必要があります。
●認知症の睡眠問題
アルツハイマー病などの認知症の方では、同年代に較べてもさらに睡眠が浅く、さまざまな睡眠問題がみられるようになります。重度の認知症の方ではわずか1時間程度の短時間でさえ連続して眠ることができなくなるといわれています。認知症の方では夜間の不眠とともに昼寝(午睡)が増え、昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズムに陥るようになります。またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」といわれるもうろう状態がしばしば出現します。このような時には不安感から興奮しやすく時に攻撃的になるため、介護の負担が増します。認知症の方の一部では、夕方から就床の時間帯に徘徊・焦燥・興奮・奇声などの異常行動が目立つ日没症候群という現象がみられます。これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
残念ながら認知症の方の睡眠障害に有効な薬物療法は知られていません。
効果が出ても一過性の場合が多く、長期間にわたり使用することは避けなければなりません。
認知症の方の睡眠障害への対処法を下記にまとめました。即効性はありませんが根気強く続けることをお薦めします。これを参考にしながら「なるべく日中に刺激を与えて覚醒させる」「規則正しい日課で生活リズムを保つ」「夜間睡眠の妨げになる原因をなくす」ことを心がけてください。
「認知症の方の睡眠を保つために」
- 就寝環境を整える(室温・照度)
- 午前中に日光を浴びる
- 入床・覚醒時刻を規則正しく整える
- 食事時刻を規則正しく整える
- 昼寝を避ける/日中にベッドを使用しない
- 決まった時刻に身体運動する(入床前の4時間以降は避ける)
- 夕刻以降に過剰の水分を摂取しない
- アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
- 痛みに充分対処する(気づかれていないことも多い)
- 認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の午後以降の服薬を避ける
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html