正解のない一歩を踏み出す

1933年12月15日、カール・グスタフ・ユングは文通相手の婦人に宛てて、「正しい生き方とは何か」という問いに答える返事を書いた。

その答えは、「どう生きるべきかという質問には、答えがありません」とユングは切りだした。

「人は、ただ自分にできるように生きるだけです。唯

唯一の正しい生き方などありません。

ユングにいわせれば、個人の人生とは「みずから切り拓いていく道であり、誰も通ったことのない道」である。

「前もって知ることはできません。あなたが一歩を踏みだしたとき、そこに道ができるのです。⋯⋯ただ静かに、目の前のやるべきことをやりなさい。

やるべきことがわからないなら、きっと余計なことを考えすぎるほどにお金がありあまっているせいでしょう。

しかし次にすべきこと、もっとも必要なことを確信を持って実行すれば、それはいつでも意味のあることであり、運命に意図された行動なのです」

ここから「次にすべきことをしよう(Do the next right thing)」という言葉が広まり、アルコール依存で先の見えない人たちが、それでもなんとか前に進むためのスローガンとなった。

依存症の人だけでなく、僕たちみんなが心に留めておくべき言葉だと思う。「次にすべきこと」を実行するのが、いつだって、自分にできる唯一のことだからだ。

たとえ正解がわからなくても、とにかく次にすべきことをやるしかできない」ということは、裏を返せば「それしかしなくていい」ということだ。

この真実を受け入れることができれば―つまり、自分が限りある人間であるという状況に潔く身を任せるならば―これまでになく大きな達成感を手に入れることができるだろう。

それは超人的な成果ではないかもしれない。それでも、自分にできる最善のことだ。

そのとき、バックミラーのなかで徐々に形づくられていく人生は、たしかに「自分の時間をうまく使った」といえるものになっているはずだ。

どれだけ多くの人を助けたか、どれだけの偉業を成しとげたか、そんなことは問題ではない。

時間をうまく使ったといえる唯一の基準は、自分に与えられた時間をしっかりと生き、限られた時間と能力のなかで、やれることをやったかどうかだ。

どんなに壮大なプロジェクトだろうと、ちっぽけな趣味だろうと、関係ない。

大事なのは、あなただけの次の一歩を踏みだすことだ。

限りある時間の使い方 オリバー・バークマン著第14章 暗闇のなかで一歩を踏み出すより

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